学部長メッセージ

人文社会学部長のメッセージ―新入生ガイダンスでのあいさつより―

人文社会学部長 丹野清人                  人文社会学部長 丹野 清人

東京都立大学人文社会学部は、全国でも珍しい、入学の時点では自分が勉強することになる所属先の決まっていない大学です。東京都立大学の他学部と比較してもこの点は異質だと思います。このような形式を我々が一貫して変えないでいるのは、まだ大学で学ぶ学問がどのようなものなのかわからないままに高校生の時に抱いたイメージによるが選択ではなく、広く自分の関心に合う様々な科目を 1 年間学んでもらって、その結果として自分の学びたい学問領域を決定する方が望ましいと考えているからです。

人間社会学科は7教室に、人文学科は8教室に2年次から分かれます。しかし、各教室に分かれたからと言って、その後は狭く勉強していくというものでもありません。もちろん、中心として学ぶ領域は所属した教室の提供する授業になるでしょう。そうであっても、他の分野の講義やゼミも卒業単位の中に組み込めます。実際、私は社会学分野の教員ですが、私のゼミには社会学分野の学生だけでなく、社会人類学分野や教育学分野の学生は普通に入ってきますし、ときには学科を超えて哲学分野の学生が受講する年もあります。学びたいことを広く深く考える機会を与えることができるのが、東京都立大学人文社会学部です。

自由や平等、そして正義といった普遍的な価値観も大きく変化しつつあるのが現代世界です。かつて私は、二つの世界大戦までの世界は絶えず国境の書き換えがどこかで生じていたが、第二次世界大戦以後、植民地の独立に伴う新たな国境の確定や若干の領土紛争はあったが、主要国間での争いは極めて少なくなり、国際秩序に影響を与える紛争は見られなくなったという趣旨の文章を書いたことがあります。15年前に書いた文章です。今はどうでしょう。ウクライナやガザの出来事に始まり、各国でのナショナリズムの高揚と自国第一主義の台頭は国際秩序を揺るがし、国際秩序の動揺の結果としての物価の高騰といった形で、我々の日常生活にも影響を及ぼしているのです。

このように私たちが生きる世界は、急速に、これまで予想されていた未来像とは異なる方向に動き出しており、それがどこに辿り着くのか見通せない状況にあります。だからこそ、今、大学で学ぶ者は、狭い専門領域に閉じこもるのではなく、広く深く学び、自分がどのように生きるのかを自分で考えられるようにならなくてはなりません。

皆さんが選んでくれた東京都立大学人文社会学部はそれができるようになれる大学です。そして、そうなれるよう教職員も先輩の学生たちも手伝ってくれる大学です。入学したことに満足するのではなく、今日ここから、自分は何を学びたいのか、自分はどうなりたいのかを考え、大学に通ってきて、さまざまな人と交流してください。

(2025年4月9日)